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 人は学ぶことの大切さを考えたことがあるでしょうか。日本人は義務教育を受けられることに対して感謝する気持ちを持っていないのではないでしょうか。私はインドに短期間滞在したことがあります。そのとき、インドの社会状況を垣間見ましたが、インドではその当時文盲率が四十パーセントを超えていて、義務教育制度があるにもかかわらず、極貧家庭の子供たちは学校へ行けない状況でした。学校へ行きたくても行けない子供たちの将来を考えますと、他所の国のことながら暗澹たる思いに心が塞がれてしまいます。近年、インドでは社会改革が進んでいるようで、文盲率も漸進的に低下しているようですが、しかし、インドばかりでなく、世界では発展途上にも至らない貧しい国々が数多く存在していて、学校へ行きたくても行けない子供たちが私たちの想像を絶するほど多く存在すると思われます。世界の貧しい国々の教育状況と、義務教育が完全実施され、そしてより高度な教育も普及している日本の恵まれた教育状況を比較するとき、私たち日本人はこの恵まれた教育状況に対して心から感謝するべきではないでしょうか。

 人間は、誰もがより高度な教育を受けたいという衝動を心の奥底に持っているものだと思います。勉強が嫌いで学校へ行きたくないと思っている子供でも、実際に自分が学校へ行けない状況になったと仮定したとき、たとえば、自分以外の子供たちが学校へ行っているのに、自分の家が極貧であるという家庭の事情によって学校へ行かせてもらえないというような場合、その子供は自分が学校に行けないことをどのように感じるでしょうか。その子供だって皆と一緒に学校へ行って勉強したいでしょう。しかし、家庭の事情によって、自分は学校へ行って学ぶことができないという状況に置かれるのです。その子供の心は、自分が疎外されているという感情と他者を羨む思いと自己憐憫の思いが入り混じった悲しみの感情で一杯であることでしょう。幸いながら義務教育を受け終えることはできたけれども、自分が希望するにもかかわらず、上級の学校へは進むことができないということもまた、同様な悲しみです。諸々の事情によって進学の意思を阻止されても、学ぶことで自己の精神的成長を願う上昇志向が強い人々は、自分の力が及ぶかぎりの方法で、夜間学校へ行ったり、通信教育を受けたりして、より高度な教育を受けようと努力するのです。基本的に、人間には、自分が精神的により成長したいという本能的な感情、すなわち向上心が植えつけられているようです。

 しかしながら、一応の教育を受け終えて、社会へ出て働くようになると、会社勤めや日々の生活の忙しさに追われて、学ぶことを続けようとするほどの熱意を持ち続ける人は激減してしまうようです。また、仮により高度の教育を受けたいと思っても、社会人のために門戸を開いている公的な教育機関は日本では少ないのではないでしょうか。働き始めた若い人たちがより高度の教育を受けたいと思って、自分の希望に合致するような学校を探し始めても、なかなか思うような教育機関が見つからず、また、あったとしても、それは私的な機関で営利を目的とするものであるために授業料が非常に高額であったりして、自分が思い描く理想的な教育を受けることができないのが現状です。低額の授業料で長期間学べる成人学級や夜間学級が整備されていれば、勤勉な日本人のことですから、もっと学びたいと思っている人たちは、そうした学級にどっと押し寄せることでしょう。

 教育制度を根本から見直して教育機関の拡充を図り、テレビやラジオなどの放送網やコンピュータ、および既存の教育施設を活用しての生涯教育システムを確立したらどうでしょうか。潜在的に学びたいという熱意を持っている日本人は多く存在するはずですから、公的な教育機関で低額の受講料で学ぶことが可能であるならば、その恩恵は、学びたい人々にとっても社会にとっても多大であることでしょう。社会が受益するという意味は、学びたいと思う人たちが生涯教育システムの中で学び始めて、余暇の時間を学ぶことによって有益に使うならば、徐々に人々の意識変革が起こり、そしてそれが社会全体に浸透して、より多くの人々が学び始め、社会全体の知性レベルが向上するということです。人間は学ぶことの楽しさを一旦知ると、学ぶことを止めようとはしなくなるもので、生涯を通して学び続けるようになるでしょう。

 日本は高齢化社会を迎えており、定年退職後の人々が生きがいを持って日々を充実させて過ごすことの必要性や、老いても心身共に健康な状態で余生を送ることを可能にするためにも、人が望むものをいつでも学ぶことができるように、国がすべての人に教育の門戸を広く開放する体制を確立してもよい時期ではないでしょうか。テレビで放送大学を実施していますが、この方式をより拡充させて、中学校の教育課程のレベルから放送網を使って実施すれば、より多くの人々が利益を受けられることでしょう。現代では、不登校によって中学校のときからドロップアウトしてしまい、中学課程を修了していない若者もいるでしょうし、中高年の人々の中にも中学校へ行くことができなかった人もいるかもしれません。また、中学校を卒業した人々の中でも中学校で不得意であった科目を再度勉強したいと念願している人たちもいることでしょう。不得意であった科目を履修しなおすことで、上級学校へ進学できなかった人でも、高校や大学の教育課程に進むことが可能になります。たとえ大学を卒業した人々でも、不得意であった科目を学びなおすことで、より広範な知識を習得できることになるのです。

 一般社会人が教育媒体として活用しやすいものは、やはりテレビでしょう。国が教育媒体としてテレビ放送網を数チャンネル管轄して常時放送すれば、非常に多くの人々が教育を受ける機会に与れることでしょう。また、日本の現今ではパソコンが広範に普及していると思われますので、コンピュータとテレビを連動させれば、低コストで効率的な生涯教育システムを確立できるのではないでしょうか。科学技術の発達が日進月歩の如くにめざましいのですから、二十一世紀における教育システムは根本から変わる可能性があるように思えます。科学技術の進歩に併せて、種々様々な旧弊を廃して、そして知性レベルの進歩向上をめざして、私たちの頭の中も斬新な改革をしなくてはならないことでしょう。

 

 

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