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精神世界へようこそ・欲と犯罪

 欲と犯罪に関連性はあるのでしょうか。強盗や殺人などの犯罪が起こることの大本の原因は、一体何でしょうか。

 人々は、犯罪と欲についての関連性を考えたことがあるでしょうか。世の中で重大犯罪や極悪犯罪という、唾棄すべき厭わしい事件が起こることの根本的な原因は、人間の<欲>という、たった一つの言葉に帰趨できるということを、人々は認識しているでしょうか。人間を善い方向へも、あるいは悪い方向へも向かわしめることができる、人間の心の中に生じる欲望というものについて、人は深く考えたことがあるでしょうか。

 物質主義的な現代社会において、人々は快楽の生を求めて物欲的な生を導いているようであり、現代人は、より多くの快楽と、生において物質性に基づく快適性を求めて、物欲を膨らまし続けているようです。しかしながら、人間の心の中に生じる欲望、特に物欲というものは、犯罪と密接な関連性があるものですから、物欲は人間を堕落させる危険な要因であることに、人は充分に心すべきでしょう。

 人間が心の中で抱く渇望、欲望、欲とは、一体何でしょうか。欲望は人間の生に対してどのように作用するものでしょうか。

 欲望にはさまざまなタイプの欲望がありますが、欲望から生じる結果を鑑みて、二種類の欲望に大別できると思います。それらは、人間にとって善い結果をもたらすポジティヴな欲望と、悪い結果をもたらすネガティヴな欲望です。欲望がポジティヴな方向へ向かえば、人は精神的に成長することが可能ですが、欲がネガティヴな方向へ向かえば、人間は悪行を為すことに対して良心の呵責を感じることがなくなり、その結果、犯罪を重ねてしまうこととなって、精神性と霊性において退化の方向へと自己を貶めてしまうことになるでしょう。

 欲望がポジティヴな方向へ向かうとは、たとえば、人が自分をより善くしたいという願いや欲求、すなわち向上心という欲を持って、勉学に励んだり、精神修養に勤(いそ)しんだりすることによって、人は、その人間性において精神的にも霊的にも向上することが可能です。これは、人間の欲がポジティヴな方向へ向かって作用する例でしょう。

 一方、欲がネガティヴな方向へ向かうとは、人間が現象の物質世界に捉われて、この世界で幸福に生きるためには金が最も大切なものであると短絡的に考えて、財物に対する欲望ばかりを膨らませて物欲的な生を送り、生において精神性の発達を疎かにしてしまうことです。人間が物質に捉われて、物欲的な生を送ることのデメリットは、精神性、および霊性を発達させることの重要性を閑却してしまうことであり、精神的な発達向上がない人間とは、人間性における大切な精神資質である、道徳や礼儀などの公徳心、また思考力や理解力という知性を充全に開花させることができず、物事の是非善悪の判断さえ正しく為すことができないというような、愚昧な人間であるということでしょう。

 物欲的な生を強化していると、財物に対する執着心がますます強められていきます。物欲を統御せずに、物欲を満たすことばかりに心をくだいていると、物欲は膨れあがるばかりで抑えがきかないようになってしまいます。と言うのは、物欲を満たしたことで、束の間ではあっても満足感を味わったこととなり、人はそうした充足感を常に味わいたいがために、自己の心の中で次から次へと湧き起こる物欲をどうあっても満たそうと、人は欲望充足という泥沼にはまり込んでしまうからです。従って、物欲というものは、満たせば満たすほど、ますます強大にして強固なものになっていくのです。

 物欲を満たすことに対して、自分が働いて稼いだ金で事足りているうちはよいのですが、物欲を満たすということに習慣づけられた心は、次から次へと湧き起こる欲望を制御することができなくなり、物欲を満たすための金欲しさに、やがて人間は悪事に手を染めるようになってしまうのです。労働から得る正当な稼ぎだけでは、自分の欲望を満たすことができなくなるために、人は借金をしてまでも物欲を満たそうとします。元々、手持ち金がない人間が、返済の当てもないのに借金をすれば、利息と共に負債が増えていくのは、深く考えずとも自明の理でしょう。雪だるま式に増えた借金を抱え込んだ人間にとって、金の算段がつかなくなるのも時間の問題です。多額の負債を抱えた人間は、やがて二進(にっち)も三進(さっち)も行かなくなり、何としてでも金を得ようと、泥棒や強盗、果ては殺人という極悪犯罪を犯してまでも金を得ることを画策するようになります。物欲という欲望を統御できない人間は、理性を失い、人倫の道から外れて、犯罪の坂道を加速度をつけて転がり落ちていくようになるのです。

 従って、欲と犯罪の関係を一言に要約すれば、人が汚職や窃盗や強盗などの犯罪に手を染める原因は強度の物欲によると言えるでしょう。これは、少しばかり熟考すれば、万人が納得する論理ではないでしょうか。人間は、金や物が欲しい、あるいはより多くの快楽を得たいという物欲のために、悪人に成り下がってしまうのです。

 現代社会で非常に憂えるべき現象は、少年少女たちの万引きです。小学生や中学生のうちから万引きに手を染める子供たちが多く現出しているようです。万引きをするような子供たちは、家庭環境や生来的な性向などによって、基本的に道徳観念が希薄なのでしょう。それで、自分にとって欲しい物があって、それを買う金がないというような場合、欲望を抑えることができずに、いとも簡単に万引きという犯罪を犯してしまうのでしょう。

 万引きという犯罪に手を染めてしまう子供たちの家庭では、親が子供に対して、人間として最低限守るべき道徳の躾をしていないのではないでしょうか。万引きをする子供たちは、犯罪に対して強い罪悪感を持っていないという、生来的な性向があるのかもしれませんが、しかしながら、もし家庭において常日頃から親が子供に対してしっかりとした道徳教育を施してさえいれば、児童のうちから犯罪に手を染めるというような不面目なことは起こらないだろうと思われます。万引きや窃盗は刑罰を受ける犯罪であり、人間は法を犯す行為を決してしてはならないということを、親が子供に対して常日頃から教え導いていれば、子供は、盗みという行為は重大な犯罪であることをしっかりと認識して、たとえ素行の悪い友達にそそのかされても、犯罪行為を犯すようなことはしないでしょう。

 道徳教育は、学校の教師によって施されるものではなく、基本的に家庭において為されるものでしょう。親が清廉な倫理道徳観を持ち、子供が幼少のうちから正しい道徳教育を施していれば、子供は成長していく過程において人倫の道から踏み外れるような行ないは決してしないものだと思います。それゆえ、万引きや窃盗などの犯罪を犯す子供たちの親は、外面的にはどのように立派な生き方をしていようとも、内面的にはその子供たち同様に道徳観念が希薄で、物欲的な生を導いているのではないでしょうか。親が精神性を忘れた物質主義者であるから、子供は親の生きざまを踏襲して、金がこの世を律するすべてだと思い、物質に執着する生粋の拝金主義者となり、そして金や物欲しさのために万引きや窃盗などの犯罪を犯すようになるのでしょう。

 少年少女のうちから万引きや窃盗という犯罪に走るような子供たちに対して、親や周囲の大人たちが毅然とした態度で臨み、そして早い段階でその悪の芽を摘み取るようにしなければ、子供たちは良心の呵責を感じることがますます鈍感になって、やがては大きな犯罪を犯すようになってしまうのではないでしょうか。悪行を為す子供たちに、法を犯すような行為をしてはならないということを早く、そしてしっかりと認識させなければ、万引きや窃盗などの犯罪では済まなくなり、強盗や殺人などの大罪を犯すようになってしまうでしょう。なぜなら、犯罪に手を染めた彼らは小さな犯罪を重ねていくうちに、良心という、人間を精神的に正しく導く神の資質を失ってしまい、物欲のために大罪人、本当の悪人に成り下がってしまうからです。

 金融機関や宝飾店を襲う大金強奪犯罪、ネット関連の巧妙な犯罪、クレジットカード犯罪、ピッキングによる空き巣・強盗犯罪、ひったくりや車上荒らし、売春や買春犯罪、そして極悪な殺人事件等々、物欲から発生するこうした厭わしい犯罪が毎日のように新聞紙面を賑わすような殺伐たる日本社会になってしまいました。凶悪な事件が起こらない日は皆無であると言ってよいほどに、日本の行く末が案じらる昨今です。

 日本の安全神話は今や本当に崩れ去ってしまったようです。生きにくい世の中となってしまった現今、日本人である私たち、特に日本の社会を現在のような退廃と騒擾の世の中にしてしまった責任を有する中高年の世代が、この乱れた社会を再び安心して暮らせる社会に世直しするために、私たち日本人は今、一体何をなすべきかを深く考えるべき時ではないでしょうか。

 今、学童期にある若年世代が世代交代によって日本社会の中核となる時代には、日本に住むすべての人々が物心両面に亘って繁栄を享受でき、そして安心して暮らせる健全な日本社会となっているように、今現在、日本社会の中核にあって、社会の潮流を方向づけている中高年世代の人々が、物質主義的な生き方の弊害に気づき、精神性の進歩向上に価値観を認め、人間性の発達に重きを置いた生き方に改めていかなくてはならないでしょう。

 

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