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精神世界へようこそ・老後の生

 世界一の長寿国となった日本で、老後の生を如何に過ごすかということは、日本人であれば誰にとっても真剣に考えなければならない焦眉の問題でしょう。私たち団塊の世代が六十歳代になる数年後には、ほぼ四人に一人が六十歳以上の高齢者だそうですが、これまで日本が謳歌してきた物質的な豊かさにも翳りが見え始めて、二十一世紀の日本の多難が予想される事態になってきました。団塊世代の人々が定年退職して、そして老齢年金を受給できる年齢に到達したとき、現時点で大変な赤字財政の中にある日本の行政府が総人口の二十五パーセントを占める老齢者に年金支給を完全実施できるとは到底考えられないことです。国が即時に緊縮財政を実施して、現在の国家財政の赤字を大幅に減らす努力をせず、現状の財政政策を続行するかぎり、団塊世代の人々にとって老齢年金の受給が開始されるときには、日本の財政破綻は火を見るよりも明らかなことでしょう。少しばかりの智慧があって物事を洞察できる人間であれば、日本の将来を予見するのは少しも難しいことではないはずです。そうした大変な状況に向かって動いている日本では、そのしわ寄せを最大に受けるのは団塊世代の人々でしょう。団塊世代の人々が戦後の物質主義の中で日本をこれほどの物質主義国家に至らしめた功績は大きいと思いますが、また、その反動として物質主義の退廃と凋落を受け止めるのも団塊世代であろうことは必然の理と言えるのかもしれません。

 団塊世代の人々が老後において困難な状況に直面するのは目に見えていることです。将来のそうした困難な状況を予見して、今、団塊世代の人々が準備できることとは、一体何でしょうか。二十一世紀に老後を迎える多くの日本人が真剣に自分たちの老後を考えなければならない状況に、今私たちは置かれているのです。

 老いて、自分の思うように身動きできないことは悲しいことです。それは老いの悲しみであり、苦しみです。しかし、万人が老いていくのであり、万人がその悲しみを味わうのです。誰もこの老いの悲しみを避けることはできません。しかし、老後の生の大変さを思い、そしてどうしたら老後を充実させて生きることができるかということを早い段階で着目し、老後を含めた人生設計をしっかりと考えることができた人は、自分が立てた目標に向かって着実に人生を歩んでいくことができるでしょうし、早く老け込まないですむことでしょう。人間は常に目標を持つことです。目標を持って生きている人に老いはありませんし、目標に向かって精進しながら日々を過ごしているので、生き生きとしているものです。人間は年齢を重ねるほどに頭の働きが悪くなるものですから、頭を呆けさせないためにも、常に頭を使うこと、身体を適度に動かすことが、中高年の人々にはとても大事なことでしょう。特に、常に頭を使っていることは、呆け防止に非常に役立つだろうと思われます。

 人間は毎日を忙しく働いて過ごしていると、日々が矢のように過ぎ去る如く、年月も早く過ぎ行くもののようです。従って、人間は働けるかぎり働いていたほうが、老齢を実感することなく、いつまでも若々しくいることができて、精神的にも肉体的にも非常に良いようです。定年退職して隠居生活に入ると、自由な時間をもてあまして心身共に老け込みが加速してしまうようであり、呆け老人や寝たきり老人となってしまう確率が高いのではないでしょうか。痴呆にならないためにも、寝たきりにならないためにも、数年後に老後を迎える私たちは、今からしっかりと老後の生を考えるべきでしょう。長く働くことを可能にするためには、今からどのように準備したらよいのでしょうか。

 まず、痴呆にならないためには、常に何かを学び、そして深く考えることができるように、頭を柔軟な状態にしておくことが望ましいことだろうと思います。頭を柔軟な状態にしておくためには、これまでの人生で自分が是非とも学びたいと思っていたものがあれば、それを今から学び始めて、そしてそれを生涯学び続けることでしょう。たとえば、学校に行って勉強したいと強く念願していたのであれば、現在では夜間の中学でも高校でも大学でも門戸を開いているのですから、今から学ぶことを始めたらよいのではないでしょうか。学校に行って学ぶという、それほど大それたことをしなくても、自分の趣味と呼べるようなものを一つくらいは持って、それを楽しみに学び続けることによって、そうした趣味が生きがいとなって、毎日の生活に張りと潤いが生まれることでしょう。何事も億劫がらずに、身体をこまめに動かして、頭を使っていたら、人間は呆けている暇などないでしょう。頭脳明晰で、身体も柔軟に動かすことができる人は、世の中で長く働くことができるのは当然でしょう。定年退職を迎えたとしても、心身共に柔軟な人にとっては、定年後に再び働く場を見出すことはそれほど困難なことではないでしょう。低賃金と軽い労作業を厭わなければ、それなりの仕事はあるものです。低賃金だとしても、仕事を得ることができて、いつまでも元気で若々しく働いていられることのほうが、人間にとっては幸せなことではないでしょうか。

 また、数年後には多くの高齢者が存在するはずですから、六十歳以上の健康な人々は、介護する側の訓練を受けて、有償、無償でのボランティア活動として、高齢になって付き添いが必要な人々の身の回りのお世話をする介護員として働くこともできるのではないでしょうか。これからの高齢化社会においては、高齢者同士が互いに助け合うことが絶対的に必要なことでしょうから、自分の身体が動くうちは、介護が必要な高齢者のお世話をして、自分が動けなくなるほどの高齢に達したときは、素直に介護を受けることが望ましいと思われます。世界に前例がないほど、急速に高齢化社会に移行している日本の現状況を考えますと、誰もが身体が動くうちは動かし、また、助け合わなければならないというような、相互扶助の社会になるのは時代の趨勢として必然的なことでしょう。地域ごとに高齢者グループを組織して、そのグループ内で相互扶助を図るようなシステムが望ましいのではないでしょうか。また地域ごとに老齢者のための公共施設を開設し、希望する高齢者はその施設で互いに助け合いながら老後を安心して暮らせるというような政策も今後は必要とされるでしょう。

 高齢になったからといって何もせず、人の世話を受けるのは当然だとして、楽することばかりを考えているような人は、これからの高齢化社会においては生きにくくなるでしょうし、また、許されることでもないでしょう。働けるうちは働き、動けるうちは動くのが人間の義務であると、すべての人が自覚するべきでしょう。常に一人立ちして生きられることが人間にとって幸せなことであり、また、人間としての責任でもあるでしょう。人間として誇れるような人生を全うしたいのであれば、今までの生き方を見つめなおし、そして今後の老後の生に対してよく準備をするべきでしょう。他人に迷惑をかけず、常に一人立ちしていられる生き方を維持するために求められるのは、基本的には精神力であり、そして老いを感じさせない若々しい肉体でしょう。ですから、痴呆にならないように常に頭を使っていることと、肉体を柔軟にしておくために身体をこまめに使っていることが非常に重要になるのです。精神と肉体を常に柔軟に保つことの大切さを本当に理解したならば、頭と身体が動かなくなる前に、すなわち今からすぐにでも老後に備えて準備をしなければならないということが解るはずです。老後を含めて自己の生を大切に思い、そして死ぬまでの日々を安らかに生きていたいと願うのであれば、人は皆、人生そのものを見つめなおして、そしてこれからの毎日を有意義に過ごすように心がけるようになるでしょう。

 

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