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 物理学ではダーウィンによる進化論があります。宇宙の一切のものが進化の過程にあるようです。私たちの人間社会においても、過去から現在に至る流れを考察するとき、その形態においても、また質的な変化においても、社会は進化しているように思えます。人間の意識においても、人々がよく言うように、意識が進んだ人もいれば、進んでいないと思われるような人もいます。その意味は、人は千差万別であり、感情、知性、思考レベルにおいて、それぞれに異なっているということです。意識が進んでいるということは、知性、感情、意思などの精神的な要因をすべて含んだ精神性、あるいは霊性においてより進んでいるということであり、それは学問的な知識を蓄積したことによって知性が高いという意味ではありません。

 精神的にというよりも、意識的に、あるいは霊的により高く上昇するために、私たち人間は、一度の生だけではなく、幾度も幾度も生まれ変わり死に変わって、人間としての意識進化を果たしていくのでしょう。輪廻転生によって数えきれないほどの地上の生を経験して、種々様々な経験から多くのことを学び、智慧を積んで、人間は霊的に成長していくのだと思われます。ですから、万人の意識レベルがそれぞれに異なっていて、この世の中で各人各様に学ぶべきことを学び、果たすべきことを果たして、自己の本分を全うするように努力して生きていかなければならないのでしょう。人々は世の中を<修行の場>と言いますが、全くそのとおりであると思います。この地上に生まれてくるかぎり、すべての人が経験を積んで、智慧を培って意識進化を果たさなければならないのでしょう。宇宙を統べる進化の法則からなんぴとも逃れることはできないのです。宇宙そのものが進化法則に則っているのですから、宇宙の一部である人間は当然のごとく、進化法則から逃れることはできません。

 世の中にはさまざまな人間がいます。善人もいれば悪人もいます。表面的には善人のように見せかけても、心が汚れている性悪な人間もいます。無知ゆえに物事の分別ができずに、金欲しさのために泥棒や強盗に成り下がる者たちもいますし、人間の心を失って人殺しという大罪さえ犯す哀れな者たちもいます。借り物である権力や地位を笠にきて、私腹を肥やそうと心ひそかに悪事を企んでいる輩もいます。一方では、貧者や弱者に対する奉仕を喜びとして心清らかに生きている人々もいますし、家庭生活の中でささやかな幸福を見出して、平穏無事な生を享受している人々もいます。また、ひたすらに生の真実を求めて求道する人たちもいます。人は千差万別であり、そして人はさまざまな生を導いています。けれども、この地上に生を享けたすべての人間が心しなくてはならないことがあります。それは人間の生は無目的なものではなく、有目的であるということです。人間の生は断じて無目的なものではありません。もし、生に目的がないならば、人間としてこの世に生まれ出る必要はなく、人間のような知性を持たない牛や豚などの四足動物として生まれ出てもよいでしょう。けれど、人間として生まれてきたからには、人間として生きる生の目的があるのであり、それは霊的に進化向上し、人間としての生を完結させて、より高次の意識界へ上昇するということなのです。

 物欲的な人間は、生の意義を理解することなく、誕生と死という、苦しみで彩られた無知無明の生を幾度も幾度も経巡り、悲しみの生を繰り返すのです。物質主義者たちは輪廻転生の輪を打ち砕くことが決してできないでしょう。悪事を犯した者、人を殺した者たちは、現世の生よりもみじめな境涯に落ちて、数多の償いの生を生きることになります。償いの生を生きるのは、自分が犯した罪によって穢れてしまった意識を浄化しなければならないからです。正義が失われたような、混沌たるありさまの日本の現代社会を見ると、力ある者が益し、無力な者が不利益をこうむっているかのように見えるかもしれませんが、事実は断じてそうではありません。人間の心では推し測ることができない大いなる正義の理法がこの世の中を厳然と律しているのであり、それはすべての人間に対して絶対的に公平に作用しているのです。たとえば、権力を掌中に収める者たちが、法律の網の目をかいくぐって、職権を悪用して私腹を肥やしたとしても、いずれその応報を受けて、償いをしなければならないときが必ずやってくるのです。自己が為した悪行に対する償いを果たすのは、現世であるかもしれませんし、あるいは次の生であるかもしれません。けれども、為した行為に対する応報は、その行為を為した者に必ず跳ね返ってくるのです。それが、因果応報と呼ばれる、宇宙を統べる正義の理法です。生は一度だけのものではないゆえに、現世を正しく生きた者にはより善い次生が約束され、ひそかに悪事を働いたり、大罪を犯して、自己の霊性を穢した者たちの次なる生は、苛酷で苦しみの生となるのは当然の理でしょう。従って、貧しくあっても心正しく生きている人々は幸いです。なぜなら、心正しき人たちにとって、輪廻転生の輪はほどけずとも、次なる生は霊的に進歩した心豊かな生であり、高次の意識界へより近づいた生となるからです。

 人間がこの地上の生で求められていることは、まず自我意識の奥底の純粋なる自己本性を認識しなければならないことです。自己の本性である純粋意識を認識して、人間として存在することの意味が理解できれば、地上の生の目的を果たしたことになります。心を純化して霊的に進歩したとき、人間は意識の高次領域へと旅立っていくことが可能になるでしょう。けれども、自己の深奥の本性を悟るというのは簡単なことではありません。純粋意識を認識するためには、心の純化が大要諦です。心の純化を果たさないで、霊性の奥底に至るのは絶対的に不可能なことでしょう。心の純化とは、金銭や事物に対して執着するという、卑賤な物欲を排除して、心正しい道義的な人間になることです。従って、まず心を純化して、霊性の道を正しく歩んでいかなければ、意識進化における上昇過程に入ることは可能ではないでしょう。

 世の中は物欲的な者たちがはびこり、そして得(え)てしてそのような物欲的な者たちが権力を握って社会を牛耳(ぎゅうじ)るゆえに、世間的な地位と名声を得て、金を多く蓄えた拝金主義者たちがこの世の勝者であるかのように、人々は誤解してしまうのです。けれど実際には、そのような物質主義者たちが意識の高次領域へと昇ることは決して可能ではありません。物欲的な物質主義者たちは常に物質界に留まることになります。なぜなら、彼らは、精神性、霊性志向ではなく、物質志向なのですから、当然ながら物質界に引き留められるのです。彼らが誕生と死という輪廻転生の輪を断ち切って永遠の生を享受する高次意識界へと上昇することは、ラクダが針の穴を通るよりも難しいでしょう。精神性という霊性、あるいは意識は、人の目には見えない不可視のものですから、肉体人間は、物質に対する霊の高位性を認識できずに、即物的な価値に走るのです。しかし、即物的な価値に走ることは自己の霊性を貶め、意識進化の道程において停滞してしまうことになります。従って、人間が住む物質界を超えて、意識の高度な成長過程に入るのは並大抵なことではありません。それは、物欲的な人間には不可能なことでしょうが、霊性に重きを置いて精神的に生きる人々にとっては達成可能でしょう。そして精神性、霊性志向の人々は、進歩向上の生を重ねて、必ず高次の意識界へと到達することでしょう。

 連綿と続く人類の歴史の中で、名前を残した多くの人々の中でも、霊性において卓越した業績を残した聖者たちや霊性指導者たちは燦然とその名声と偉業を誇っています。彼らはこの地上の生を終えて、はるかなる意識進化の上昇過程へと入っていったことでしょう。彼らのように、私たちがより高度な意識進化の道程に入るには、今後どれほどの輪廻転生を経なくてはならないのでしょうか。普通の人々にとっては数えきれないほどの誕生と死を経なければならないでしょうが、自己を純化して、絶対的な真実を求めてひたすらに霊性の道を歩むならば、今生においても輪廻を断ち切ることは不可能なことではないでしょう。不可能なことではないでしょうが、一心不乱の自己修養と修行が求められるので、よほどの意思強固な人でないかぎり、霊性の高みに昇ることは難しいことでしょう。けれども、宗教の世界で名を残した人ばかりではなく、無名で終わった人々でも、霊性における進歩向上をめざしてこの世を生き抜いた真摯な人々は無数に存在したはずです。ですから、自分を大切に思い、霊的に進歩向上したいと願う人は、寸暇を惜しんで自己修養に努め、そして現世の生を高次な意識進化へ至る縁(よすが)とするべきでしょう。

 

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